そして、いままでいったん品川駅まで迂回して乗り換える必要があった大井町・大崎聞が、乗り換えなしの一駅で結ぼれる効果は大きい。
人聞は奇妙な動物だ。
ひと駅だけ電車に乗って、またわざわざ乗り換えてもうひと駅電車に乗って行くところというのは、億劫になって行かなくなってです。
だから、いままで大崎・大井町聞にはほとんど買い回りのショッピング需要なんてなかったはずだ。
まあ、どっちもわざわざ買い回りの対象にするような店そのものがなかったということもあるが。
これからは、大井町を軸にりんかい線で大崎につながり、京浜東北線で大森につながる地域が、ひとつの買い回り商圏に発展する可能性が高い。
それに加えて注目したいのは、昔は高級住宅地だった大森が復活する条件が整ってきたことだ。
大森という場所は、もともと「成した文士は、大森に豪邸を構える」といわれたほど高級住宅地としてのブランド性の高い土地だった。
その大森が、最近はまったくパッとしない。
終戦直後に焼け跡闇市として栄えた場所の中で、その後鳴かず飛ばず状態が続いているのは、赤羽とか両国とか都心から北東にるな位置する場所が多い。
その中で、たった一ヵ所だけ都心かどら南西に位置しながら戦後経済の高度成長に乗り遅れてしたつ川まった珍しい土地が、大森だと、一九九年から二一年の年間で、ファミリータイプマンションが四000万円で手に入る場所は、小田急線沿線だと新松田から狛江へ、中央線では高尾から武蔵境へ、西武池袋線でも武蔵藤沢から桜台へ接近した程度都心で取得しやすくなった14000万円マンション」だけど、東海道線・京浜東北線沿線だと、なんと三島から大森まで戻ってきたということになっている。
なぜ大森は、ここまで落ちぶれてしまったのか?最大の理由は、中小工場密集地帯だった大森・蒲田周辺が、一九五九年に工場等規制法が策定されてこのかた、四年あまりにわたって「都心からの工場、大学追い出しキャンペーン」の犠牲になってしまったことだろう。
しかし、小売業界ほどひどくはないが、製造業でも「中小零細工場は大企業には勝てっこない」といった敗北主義、無力感が地域全体の活気を奪っていたという傾向も見逃せない。
もともと大森・蒲田界隈の工場は、足立区、墨田区あたりの工場に比べると、単純な素材より技術力による付加価値の高い高度な加工業を営んでいる場合が多かった。
だからこそ、工場追い出しキャンペーンの中でも場所を移らずにやっていけているわけで、けっして「きつい、汚い、危険」のいわゆる3Kイメージでひと括りにしてはいけないだろう。
だが、とかく世間の評判では公害の元凶みたいなことばかりいわれるし、「進歩的文化人」たちには「おまえたちはどうせ能力が劣っているんだから、大規模製造業には太万打ちできなくて当然だ」なんて悪質なイデオロギー宣伝をしつこく聞かされる。
どうしても、考えかたが消極的加で、他力本願になってしまっていた。
しかし、その大森・蒲田界隈にも活気が戻ってくる兆候が表れはじめた。
最大の変化は、もう四年以上続いていた工場や大学の大都市圏からの追い出し政策が、小泉内閣の都市再生政策の中で、方針転換されることだろう。
大森・蒲田界隈の高い技術力を維持している町工場は、設備さえ拡張すればまだまだ成長が可能だというときでも、なかなか拡張できないでいた。
拡張するには、長年住み慣れて、お客との付き合いも多い場所から出て行って、郊外や地方の工業団地のようなところに移転しなければならなかったからだ。
そういう成長のポテンシャルを持った町工場が、これからはへんぴな田舎に移転しなくとも規模を拡大できる展望が開けてきたのだ。
この変化は大きい。
大森・蒲田の町工場密集地帯はずいぶん雰囲気が明るくなるだろう。
また、せっかく青山にキャンパスがありながら、都心追い出しキャンペーンに乗せられて厚木まで移転してしまった青山学院大学が、すったもんだの騒動の末、やっと都心近くに戻ってこられることになったが、新しいキャンパスは厚木の隣町の相模原だった、なんて笑えない悲喜劇もなくなるだろう。
こういうかわいそうな目に遭わせ続けてきた罪滅ぼしに、郊外でわぴ住まいをしてきた大学が都心キャンパスに戻るときには、五パーセントとか一000パーセントとかの容積率ボーナスをつけてやって、超高層キャンパスをつくりゃすくしてはどうか。
ただし、東大本郷キャンパスの立体化だけは避けたほうが無難だろう。
君子危うきに近寄らずだ。
この辺は東側では、谷中・根津・千駄木地区の「限りある土地を有効に使うよりは、自分の美観に合った景色を守るほうが大事だ」というような、頑固な反成長主義者の住民運動に牛耳られなているし、西側はいまだに「西片とか小日向とかが住宅地どとして一流ブランドだ」と信じて疑わない心情没落貴族が大量に生息している。
都心への近さとか、広大な敷地が大学キャンパスとしてほとんど手っかずで残されているとかの見かけ上の条件の良さに目がくらんで、こんなやっかいな場所の開発を手がけたデベロッパーは、一生忘れられないような痛い目を見るだろう。
ついてくる焦げ目のついた長ねぎだし、もし残念ながら鴨の季節じゃなければ、ロンドンの名店シンプソンズのローストピフ・・じゃなくて、そのローストビーフの肉汁をたっぷり吸い込んだヨークシャープディングだ。
ここで、「ローストピーフは一人前でいいけど、ヨークシャープディングは二人前(セか。
ドヘルピング)くれ」っていうと、ウェイターが、「おまえは本当にものの味が分かった人間だ」っていうような顔をして、その後のサービスまで良くなる。
考えてみれば、刺し身が得意な板前に「刺し身は一人前でいいから、ツマだけ二人前くれ」っていうようなセコい注文なのに、自分たちでも本当にうまいのはヨークシャープディングのほうだつてことを知っているのだろう。
そして、更科布恒の鴨のくわ焼きについてくる長ねぎは、このシンプソンズのヨークシャープディングを押さえて、世界中の料理の名脇役ベストワンだと思う。
それはともかく、ごく平凡な喫茶店に見える店だってなかなか隅にはおけない。
たとえば、更科布恒のすぐそばにある、コーヒーファクトリーという名前のコーヒー豆の挽き売りもする喫茶店で売っているブルーマウンテンは、そんじよそこらのブルーマウンテンじゃない。
ウォーレンフォードのブルーマウンテンだ。
こういう地味だが粋な店が、いまはまだ花街のころからこの辺に住んでいる粋な爺さん婆さんのごひいきで、しっかり生き延びている。
しかし、いつまでも連中が健在ってわけではない。
早く「大三角地区」を盛り上げていかないと、せっかく一九七0年代から九0年代までの苦しい時代を生き延びた大森花街の文化遺産が、工場や大学の都心回帰の中で消滅してしまうなんて皮肉な巡り合わせにならないとも限らない。
そして、「大三角地区」にテコ入れをしようというような再開発事業は、民間企業が採算ベースで取り組めるようなものではないと、絵に描いた餅で終わってしまう。
いままでこういう場所で地方公共団体がやってきた再開発事業は、軒並み大赤字で終わっている。
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